宮沢賢治幻燈館
「銀河鉄道の夜」 47/81

「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお仕事があるのです。けれどももうすぐあとからいらっしゃいます。それよりも、おっかさんはどんなに永く待っていらっしゃったでせう。わたしの大事なタダシはいまどんな歌をうたってゐるだらう、雪の降る朝にみんなと手をつないでぐるぐるにはとこのやぶをまはってあそんでゐるだらうかと考へたりほんたうに待って心配していらっしゃるんですから、早く行っておっかさんにお目にかゝりませうね。」
「うん、だけど僕、船に乗らなけぁよかったなあ。」
「えゝ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの立派な川、ね、あすこはあの夏中、ツヰンクル、ツヰンクル、リトル、スター をうたってやすむとき、いつも窓からぼんやり白く見えてゐたでせう。あすこですよ。ね、きれいでせう、あんなに光ってゐます。」
 泣いてゐた姉もハンケチで眼をふいて外を見ました。青年は教へるやうにそっと姉弟にまた云ひました。