「なにがしあはせかわからないです。ほんたうにどんなつらいことでもそれがたゞしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんたうの幸福に近づく一あしづつですから。」
燈台守がなぐさめてゐました。
「あゝさうです。たゞいちばんのさいはひに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。」
青年が祈るやうにさう答へました。
そしてあの姉弟はもうつかれてめいめいぐったり席によりかかって睡(ねむ)ってゐました。さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔らかな靴をはいてゐたのです。
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光の川の岸を進みました。向ふの方の窓を見ると、野原はまるで幻燈のやうでした。百も千もの大小さまざまの三角標、その大きなものの上には赤い点点をうった測量旗も見え、野原のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集ってぼおっと青白い霧のやう、そこからかまたはもっと向ふからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙(のろし)のやうなものが、かはるがはるきれいな桔梗(ききゃう)いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとほった奇麗な風は、ばらの匂(にほひ)でいっぱいでした。
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