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「ありがたうをぢさん。おや、かほるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやらう。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」
姉はわらって眼をさましまぶしさうに両手を眼にあててそれから苹果(りんご)を見ました。男の子はまるでパイを喰べるやうにもうそれを喰べてゐました。また折角剥(む)いたそのきれいな皮も、くるくるコルク抜きのやうな形になって床へ落ちるまでの間にはすうっと、灰いろに光って蒸発してしまふのでした。
二人はりんごを大切にポケットにしまひました。
川下の向ふ岸に青く茂った大きな林が見え、その枝には熟してまっ赤に光る円い実がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標が立って、森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云へずきれいな音いろが、とけるやうに浸みるやうに風につれて流れて来るのでした。
青年はぞくっとしてからだをふるふやうにしました。
だまってその譜を聞いてゐると、そこらにいちめん黄いろやうすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蝋(らふ)のやうな露が太陽の面を擦(かす)めて行くやうに思はれました。
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