
そして青い橄欖(かんらん=オリーブの訳語)の森が見えない天の川の向ふにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまひそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひゞきや風の音にすり耗(へ)らされてずうっとかすかになりました。
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「あ孔雀(くじゃく)が居るよ。」
「えゝたくさん居たわ。」女の子がこたへました。
ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのやうに見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってその孔雀がはねをひろげたりとぢたりする光の反射を見ました。
「さうだ、孔雀の声だってさっき聞えた。」カムパネルラがかほる子に云ひました。
「えゝ、三十疋ぐらゐはたしかに居たわ。ハープのやうに聞えたのはみんな孔雀の声よ。」女の子が答へました。ジョバンニは俄かに何とも云へずかなしい気がして思はず
「カムパネルラ、こゝからはねおりて遊んで行かうよ。」とこはい顔をして云はうとしたくらゐでした。
川は二つにわかれました。そのまっくらな島のまん中に高い高いやぐらが一つ組まれてその上に一人の寛(ゆる)い服を着て赤い帽子をかぶった男が立ってゐました。そして両手に赤と青の旗をもってそらを見上げて信号してゐるのでした。
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