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そのとき私は大へんひどく疲れてゐてたしか風
くさぼ
と草穂との底に倒れてゐたのだとおもひます。
こんたう すず
その秋風の昏倒の中で私は私の錫いろの影法師
にずゐぶん馬鹿ていねいな別れの挨拶をやってゐ
ました。
カアペツト
そしてたゞひとり暗いこけももの敷物を踏んで
ツェラ高原をあるいて行きました。
こけももには赤い実もついてゐたのです。
カオリン
白いそらが高原の上いっぱいに張って高陵産の
磁器よりもっと冷たく白いのでした。
き はく
稀薄な空気がみんみん鳴ってゐましたがそれは
多分は白磁器の雲の向ふをさびしく渡った日輪が
かぎ とげとげ
もう高原の西を劃る黒い尖尖の山稜の向ふに落ち
きし
て薄明が来たためにそんなに軋んでゐたのだらう
とおもひます。
私は魚のやうにあへぎながら何べんもあたりを
見まはしました。
けだもの
たゞ一かけの鳥も居ず、どこにもやさしい獣の
かすかなけはひさへなかったのです。
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