|
(私は全体何をたづねてこんな気圏の上の方、きんきん痛む空気の中をあるいてゐるのか。)
私はひとりで自分にたづねました。
こけももがいつかなくなって地面は乾いた灰いろの苔(こけ)で覆はれところどころには赤い苔の花もさいてゐました。けれどもそれはいよいよつめたい高原の悲痛を増すばかりでした。
そしていつか薄明は黄昏(たそがれ)に入りかはられ、苔の花も赤ぐろく見え西の山稜の上のそらばかりかすかに黄いろに濁りました。
そのとき私ははるかの向ふにまっ白な湖を見たのです。
(水ではないぞ、又曹達(ソーダ)や何かの結晶だぞ。いまのうちひどく悦(よろこ)んで欺(だま)されたとき力を落しちゃいかないぞ。)私は自分で自分に言ひました。
それでもやっぱり私は急ぎました。
湖はだんだん近く光って来ました。間もなく私はまっ白な石英の砂とその向ふに音なく湛(たた)へるほんたうの水とを見ました。
|