宮沢賢治幻燈館
「インドラの網」 3/11

 砂がきしきし鳴りました。私はそれを一つまみとって空の微光にしらべました。すきとほる複六方錐(ふくろくほうすい)の粒だったのです。
(石英安山岩か流紋岩から来た。)
 私はつぶやくやうに又考へるやうにしながら水際に立ちました。
(こいつは過冷却の水だ。氷相当官なのだ。)私はも一度こゝろの中でつぶやきました。
 全く私のてのひらは水の中で青じろく燐光(りんくわう)を出してゐました。
 あたりが俄(にはか)にきいんとなり、
(風だよ、草の穂だよ。ごうごうごうごう。)こんな語(ことば)が私の頭の中で鳴りました。まっくらでした。まっくらで少しうす赤かったのです。
 私は又眼を開きました。
 いつの間にかすっかり夜になってそらはまるですきとほってゐました。素敵に灼(や)きをかけられてよく研かれた鋼鉄製の天の野原に銀河の水は音なく流れ、鋼玉の小砂利も光り岸の砂も一つぶづつ数へられたのです。