宮沢賢治幻燈館
「インドラの網」 4/11

 又その桔梗(ききやう)いろの冷たい天盤には金剛石の劈開片(へきかいへん)や青宝玉の尖(とが)った粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶のかけらまでごく精巧のピンセットできちんとひろはれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手に呼吸し勝手にぷりぷりふるへました。
 私は又足もとの砂を見ましたらその砂粒の中にも黄いろや青や小さな火がちらちらまたゝいてゐるのでした。恐らくはそのツェラ高原の過冷却湖畔も天の銀河の一部と思はれました。
 けれどもこの時は早くも高原の夜は明けるらしかったのです。
 それは空気の中に何かしらそらぞらしい硝子(ガラス)の分子のやうなものが浮んで来たのでもわかりましたが第一東の九つの小さな青い星で囲まれたそらの泉水のやうなものが大へん光が弱くなりそこの空は早くも鋼青から天河石(てんがせき)の板に変ってゐたことから実にあきらかだったのです。