宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 13/54

 ブドリはぼんやりあとへ残りました。うちの中はまるで汚くて、嵐のあとのやうでしたし森は荒れはてて山火事にでもあつたやうでした。ブドリが次の日、家のなかやまはりを片附けはじめましたらてぐす飼ひの男がいつも座つてゐた所から古いボール紙の函(はこ)を見附けました。中には十冊ばかりの本がぎつしり入つて居りました。開いて見ると、てぐすの絵や機械の図がたくさんある、まるで読めない本もありましたし、いろいろな樹や草の図と名前の書いてあるものもありました。
 ブドリは一生けん命その本のまねをして字を書いたり図をうつしたりしてその冬を暮しました。
 春になりますと亦(また)あの男が六七人のあたらしい手下を連れて、大へん立派ななりをしてやつて来ました。そして次の日からすつかり去年のやうな仕事がはじまりました。
 そして網はみんなかゝり、黄いろな板もつるされ、虫は枝に這ひ上り、ブドリたちはまた、薪(たきぎ)作りにかゝるころになりました。ある朝、ブドリたちが薪をつくつてゐましたら俄かにぐらぐらつと地震がはじまりました。それからずうつと遠くでどーんといふ音がしました。