宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 14/54

 しばらくたつと日が変にくらくなり、こまかな灰がばさばさばさばさ降つて来て、森はいちめんにまつ白になりました。ブドリたちが呆(あき)れて樹の下にしやがんでゐましたら、てぐす飼ひの男が大へんあわててやつてきました。
「おい、みんな、もうだめだぞ。噴火だ。噴火がはじまつたんだ。てぐすはみんな灰をかぶつて死んでしまつた。みんな早く引き揚げてくれ。おい、ブドリ。お前こゝに居たかつたら居てもいゝが、こんどはたべ物は置いてやらないぞ。それにこゝに居ても危いからなお前も野原へ出て何か稼(かせ)ぐ方がいゝぜ。」さう云つたかと思ふと、もうどんどん走つて行つてしまひました。ブドリが工場へ行つて見たときはもう誰も居りませんでした。そこでブドリは、しよんぼりとみんなの足痕(あしあと)のついた白い灰をふんで野原の方へ出て行きました。