三、沼ばたけ
ブドリは、いつぱいに灰をかぶつた森の間を、町の方へ半日歩きつゞけました。灰は風の吹くたびに樹からばさばさ落ちて、まるでけむりか吹雪のやうでした。けれどもそれは野原へ近づくほど、だんだん浅く少くなつて、つひには樹も緑に見え、みちの足痕も見えないくらゐになりました。
たうとう森を出切つたとき、ブドリは思はず眼をみはりました。野原の眼の前から、遠くのまつしろな雲まで、美しい桃いろと緑と灰いろのカードでできてゐるやうでした。そばへ寄つて見ると、その桃いろなのには、いちめんにせいの低い花が咲いてゐて、蜜蜂がいそがしく花から花をわたつてあるいてゐましたし、緑いろなのには小さな穂を出して草がぎつしり生え、灰いろなのは浅い泥の沼でした。そしてどれも、低い幅のせまい土手でくぎられ、人は馬を使つてそれを掘り起したり掻き廻したりしてはたらいてゐました。
ブドリがその間を、しばらく歩いて行きますと、道のまん中に、二人の人が、大声で何か喧嘩(けんくわ)でもするやうに云ひ合つてゐました。右側の方の鬚(ひげ)の赫(あか)い人が云ひました。
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