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「何でもかんでも、おれは山師張るときめた。」
するとも一人の白い笠をかぶつたせいの高いおぢいさんがいひました。
「やめろつて云つたらやめるもんだ。 そんなに肥料(こやし)うんと入れて、藁(わら)はとれるつたつて、実は一粒もとれるもんでない。」
「うんにや、おれの見込みでは、今年は今までの三年分暑いに相違ない。一年で三年分とつて見せる。」
「やめろ。やめろ。やめろつたら。」
「うんにや。やめない。花はみんな埋(うづ)めてしまつたから、こんどは豆玉(まめだま)を六十枚入れてそれから鶏の糞(とりのかへし)、百駄(だん)入れるんだ。急がしつたら何のかう忙しくなれば、さゝげの蔓(つる)でもいゝから手伝ひに頼みたいもんだ。」
ブドリは思はず近寄つておじぎをしました。
「そんならぼくを使つてくれませんか。」
すると二人は、ぎよつとしたやうに顔をあげて、あごに手をあててしばらくブドリを見てゐましたが、赤鬚が俄(には)かに笑い出しました。
「よしよし。お前に馬の指竿(させ)とりを頼むからな。すぐおれについて行くんだ。それではまづ、のるかそるか、秋まで見ててくれ。さあ行かう。ほんとに、さゝげの蔓でもいゝから頼みたい時でな。」
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