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ブドリはしやがんでしらべて見ますと、なるほどどの葉にも、いままで見たことのない赤い点々がついてゐました。主人はだまつてしほしほと沼ばたけを一まはりしましたが、家へ帰りはじめました。ブドリも心配してついて行きますと、主人はだまつて巾(きれ)を水でしぼつて、頭にのせると、そのまゝ板の間(ま)に寝てしまひました。すると間もなく、主人のおかみさんが表からかけ込んで来ました。
「オリザへ病気が出たといふのはほんたうかい。」
「あゝ、もうだめだよ。」
「どうにかならないのかい。」
「だめだらう。すつかり五年前の通りだ。」
「だから、あたしはあんたに山師をやめろといつたんぢやないか。おぢいさんもあんなにとめたんぢやないか。」おかみさんはおろおろ泣きはじめました。すると主人が俄(にわ)かに元気になつてむつくり起きあがりました。
「よし。イーハトーブの野原で、指折り数へられる大百姓のおれが、こんなことで参るか。よし。来年こそやるぞ。ブドリ。おまへおれのうちへ来てから、まだ一晩も寝たいくらゐ寝たことがないな。さあ、五日でも十日でもいゝから、ぐうといふくらゐ寝てしまへ。
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