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ブドリが学校へ行くやうになりますと、森はひるの間大へんさびしくなりました。そのかはりひるすぎには、ブドリはネリといつしよに、森ぢゆうの樹の幹に、赤い粘土や消し炭で、樹の名を書いてあるいたり、高く歌つたりしました。
ホツプの蔓(つる)が、両方からのびて、門のやうになつてゐる白樺の樹には、
「カツコウドリ、トホルベカラズ」と書いたりもしました。
そして、ブドリは十になり、ネリは七つになりました。ところがどういふわけですか、その年は、お日さまが春から変に白くて、いつもなら雪がとけると間もなく、まつしろな花をつけるこぶしの樹もまるで咲かず、五月になつてもたびたび霙(みぞれ)がぐしやぐしや降り、七月の末になつても一向に暑さが来ないために去年播いた麦も粒の入らない白い穂しかできず、大抵の果物も、花が咲いただけで落ちてしまつたのでした。
そしてたうとう秋になりましたが、やつぱり栗の木は青いからのいがばかりでしたし、みんなでふだんたべるいちばん大切なオリザといふ穀物も、一つぶもできませんでした。野原ではもうひどいさわぎになつてしまひました。
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