
「石油こやしになるか石油こやしにならないか知らないが、とにかく石油は油でないか。」
「それは石油は油だな。」男はすつかり機嫌(きげん)を直してわらひました。
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水はどんどん退き、オリザの株は見る見る根もとまで出て来ました。すつかり赤い斑(まだら)ができて焼けたやうになつてゐます。
「さあおれの所ではもうオリザ刈りをやるぞ。」
主人は笑ひながら云つて、それからブドリといつしよに、片つぱしからオリザの株を刈り、跡へすぐ蕎麦(そば)を播(ま)いて土をかけて歩きました。そしてその年はほんたうに主人の云つたとほり、ブドリの家では蕎麦ばかり食べました。次の春になりますと主人が云ひました。
「ブドリ、今年は沼ばたけは去年よりは三分の一減つたからな、仕事はよほど楽だ。その代りおまへは、おれの死んだ息子の読んだ本をこれから一生けん命勉強して、いままでおれを山師だといつてわらつたやつらを、あつと云はせるやうな立派なオリザを作る工夫をして呉れ。」そして、いろいろな本を一山ブドリに渡しました。ブドリは仕事のひまに片つぱしからそれを読みました。殊にその中の、クーボーといふ人の物の考へ方を教へた本は面白かつたので何べんも読みました。
またその人が、イーハトーブの市で一ヶ月の学校をやつてゐるのを知つて、大へん行つて習ひたいと思つたりしました。
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