宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 24/54

 そして早くもその夏、ブドリは大きな手柄をたてました。それは去年と同じ頃、またオリザに病気ができかかつたのを、ブドリが木の灰と食塩(しほ)を使つて食ひとめたのでした。そして八月のなかばになると、オリザの株はみんなそろつて穂を出し、その穂の一枝ごとに小さな白い花が咲き、花はだんだん水いろの籾(もみ)にかはつて、風にゆらゆら波をたてるやうになりました。主人はもう得意の絶頂でした。来る人ごとに、
「何のおれも、オリザの山師で四年しくじつたけれども、今年は一度に四年前とれる。これもまたなかなかいゝもんだ。」などと云つて自慢するのでした。
 ところがその次の年はさうは行きませんでした。植ゑ付けの頃からさつぱり雨が降らなかつたために、水路は乾いてしまひ、沼にはひびが入つて、秋のとりいれはやつと冬ぢゆう食べるくらゐでした。来年こそと思つてゐましたが次の年もまた同じやうなひでりでした。それからも来年こそ来年こそと思ひながら、ブドリの主人は、だんだんこやしを入れることができなくなり、馬も売り、沼ばたけもだんだん売つてしまつたのでした。