宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 26/54


 四、クーボー大博士

 ブドリは二時間ばかり歩いて、停車場へ来ました。それから切符を買つて、イーハトーブ行きの汽車に乗りました。汽車はいくつもの沼ばたけをどんどんどんどんうしろへ送りながら、もう一散に走りました。その向ふには、たくさんの黒い森が、次から次と形を変へて、やつぱりうしろの方へ残されて行くのでした。ブドリはいろいろな思ひで胸がいつぱいでした。早くイーハトーブの市に着いて、あの親切な本を書いたクーボーといふ人に会ひ、できるなら、働きながら勉強して、みんながあんなにつらい思ひをしないで沼ばたけを作れるやう、また火山の灰だのひでりだの寒さだのを除く工夫(くふう)をしたいと思ふと、汽車さへまどろこくつてたまらないくらゐでした。汽車はその日のひるすぎ、イーハトーブの市に着きました。停車場を一足出ますと、地面の底から何かのんのん湧くやうなひゞきやどんよりしたくらい空気、行つたり来たりする沢山の自動車のあひだに、ブドリはしばらくぼうとしてつつ立つてしまひました。やつと気をとりなほして、そこらの人にクーボー大博士の学校へ行くみちをたづねました。