宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 27/54

すると誰へ訊(き)いても、みんなブドリのあまりまじめな顔を見て、吹き出しさうにしながら、「そんな学校は知らんね。」とか、「もう五六丁行つて訊いて見な。」とかいふのでした。そしてブドリがやつと学校をさがしあてたのはもう夕方近くでした。

その大きなこはれかかつた白い建物の二階で、誰か大きな声でしやべつてゐました。
「今日は。」ブドリは高く叫びました。誰も出てきませんでした。「今日はあ。」ブドリはあらん限り高く叫びました。するとすぐ頭の上の二階の窓から、大きな灰いろの頭が出て、めがねが二つぎらりと光りました。それから、
「今授業中だよ。やかましいやつだ。用があるならはひつて来い。」とどなりつけて、すぐ顔を引つ込めますと、中では大勢でどつと笑ひ、その人は構はずまた何か大声でしやべつてゐます。ブドリはそこで思ひ切つて、なるべく足音をたてないやうに二階にあがつて行きますと、階段のつき当りの扉があいてゐて、じつに大きな教室が、ブドリのまつ正面にあらはれました。中にはさまざまの服装をした学生がぎつしりです。向ふは大きな黒い壁になつてゐて、そこにたくさんの白い線が引いてあり、さつきのせいの高い眼がねをかけた人が、おおきな櫓(やぐら)の形の模型を、あちこち指しながら、さつきのまゝの高い声で、みんなに説明して居りました。