宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 28/54

 ブドリはそれを一目見ると、あゝこれは先生の本に書いてあつた歴史の歴史といふことの模型だなと思ひました。先生は笑ひながら、一つの とつて を廻しました。模型はがちつと鳴つて奇体な船のやうな形になりました。またがちつと とつて を廻すと、模型はこんどは大きなむかでのやうな形に変りました。
 みんなはしきりに首をかたむけて、どうもわからんといふ風にしてゐましたが、ぶどりにはたゞ面白かつたのです。
「そこでかういふ図ができる。」先生は黒い壁へ別の込み入つた図をどんどん書きました。左手にもチヨークをもつて、さつさつと書きました。学生たちもみんな一生けん命そのまねをしました。ブドリもふところから、いままで沼ばたけで持つてゐた汚い手帳を出して図を書きとりました。先生はもう書いてしまつて、壇の上にまつすぐに立つて、じろじろ学生たちの席を見まはしてゐます。ブドリも書いてしまつて、その図を縦横から見てゐますと、ブドリのとなりで一人の学生が、
「あゝあ。」とあくびをしました。ブドリはそつとききました。
「ね、この先生は何て云ふんですか。」