宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 30/54

 ぐんぐん試験が済んで、いよいよブドリ一人になりました。ブドリがその小さな汚ない手帳を出したとき、クーボー大博士は大きなあくびをやりながら、屈(かが)んで眼をぐつと手帳につけるやうにしましたので、手帳はあぶなく大博士に吸ひ込まれさうになりました。
 ところが大博士は、うまさうにこくつと一つ息をして、
「よろしい。この図は非常に正しくできてゐる。そのほかのところは、何だ、ははあ、沼ばたけのこやしのことに、馬のたべ物のことかね。では問題を答へなさい。工場の煙突から出るけむりには、どういふ色の種類があるか。」
 ブドリは思はず大声に答へました。
「黒、褐(かつ)、黄、灰、白、無色。それからこれらの混合です。」
 大博士はわらひました。
「無色のけむりは大へんいゝ。形について云ひたまへ。」
「無風で煙が相当あれば、たての棒にもなりますが、さきはだんだんひろがります。雲の非常に低い日は、棒は雲まで昇つて行つて、そこから横にひろがります。