宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 32/54

ブドリがいよいよ呆(あき)れて見てゐますと、間もなく大博士は、向ふの大きな灰いろの建物の平屋根に着いて船を何かかぎのやうなものにつなぐと、そのままぽろつと建物の中へ入つて見えなくなつてしまひました。

 五、イーハトーブ火山局

 ブドリが、クーボー大博士から貰(もら)つた名刺の宛名をたづねて、やつと着いたところは大きな茶いろの建物で、うしろには房のやうな形をした高い柱が夜のそらにくつきり白く立つて居りました。ブドリは玄関に上つて呼鈴を押しますと、すぐ人が出て来て、ブドリの出した名刺を受け取り、一目見ると、すぐブドリを突き当りの大きな室へ案内しました。そこにはいままでに見たこともないやうな大きなテーブルがあつて、そのまん中に一人の少し髪の白くなつた人のよささうな立派な人が、きちんと座つて耳に受話器をあてながら何か書いてゐました。そしてブドリの入って来たのを見ると、すぐ横の椅子を指しながらまた続けて何か書きつけてゐます。