宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 34/54

まあこれから、ここで仕事しながらしつかり勉強してごらんなさい。ここの仕事は、去年はじまつたばかりですが、じつに責任のあるもので、それに半分はいつ噴火するかわからない火山の上で仕事するものなのです。それに火山の癖といふものは、なかなか学問でわかることではないのです。われわれはこれからよほどしつかりやらなければならんのです。では今晩はあつちにあなたの泊るところがありますから、そこでゆつくりお休みなさい。あしたこの建物中をすつかり案内しますから。」
 次の朝、ブドリはペンネン老技師に連れられて、建物のなかを一一つれて歩いて貰ひさまざまの器械やしかけを詳しく教はりました。その建物のなかのすべての器械はみんなイーハトーブ中の三百幾つかの活火山や休火山に続いてゐて、それらの火山の煙や灰を噴いたり、溶岩を流したりしてゐるやうすは勿論、みかけはじつとしてゐる古い火山でも、その中の溶岩や瓦斯(がす)のもやうから、山の形の変りやうまで、みんな数字になつたり図になつたりして、あらはれて来るのでした。そして烈(はげ)しい変化のある度に、模型はみんな別々の音で鳴るのでした。