宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 48/54

「さうだ。」ブドリは何気なく答へました。その男は高く叫びました。
「火山局のブドリ来たぞ。みんな集れ。」
 すると今の家の中やそこらの畑から、七八人の百姓たちが、げらげらわらつてかけて来ました。
「この野郎、きさまの電気のお蔭で、おいらのオリザ、みんな倒れてしまつたぞ。何してあんなまねしたんだ。」一人が云ひました。
 ブドリはしづかに云ひました。
「倒れるなんて、きみらは春に出したポスターを見なかつたのか。」
「何この野郎。」いきなり一人がブドリの帽子を叩(たた)き落しました。それからみんなは寄つてたかつてブドリをなぐつたりふんだりしました。ブドリはたうとう何が何だかわからなくなつて倒れてしまひました。
 気がついて見るとブドリはどこか病院らしい室(へや)の白いベッドに寝てゐました。枕もとには見舞いの電報や、たくさんの手紙がありました。ブドリのからだ中は痛くて熱く、動くことができませんでした。けれどもそれから一週間ばかりたちますと、もうブドリはもとの元気になつてゐました。