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そして新聞で、あのときの出来事は、肥料の入れ様をまちがつて教へた農業技師が、オリザの倒れたのをみんな火山局のせゐにして、ごまかしてゐたためだといふことを読んで、大きな声で一人で笑ひました。その次の日の午后、病院の小使が入つて来て、
「ネリといふご婦人のお方が訪(たづ)ねておいでになりました。」と云ひました。ブドリは夢ではないかと思ひましたら、まもなく一人の日に焼けた百姓のおかみさんのやうな人が、おづおづと入つて来ました。それはまるで変つてはゐましたが、あの森の中から誰かにつれて行かれたネリだつたのです。二人はしばらく物も言へませんでしたが、やつとブドリが、その後のことをたづねますと、ネリもぼつぼつとイーハトーブの百姓のことばで、今までのことを談(はな)しました。ネリを連れて行つたあの男は、三日ばかりの後、面倒臭くなつたのかある小さな牧場の近くへネリを残してどこかへ行つてしまつたのでした。
ネリがそこらを泣いて歩いてゐますと、その牧場の主人が可哀さうに思つて家へ入れて赤ん坊のお守をさせたりしてゐましたが、だんだんネリは何でも働けるやうになつたのでたうとう三四年前にその小さな牧場の一番上の息子と結婚したといふのでした。
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