宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 50/54

そして今年は肥料も降つたので、いつもなら厩肥(うまやごえ)を遠くの畑まで運び出さなければならず、大へん難儀したのを、近くのかぶらの畑へみんな入れたし、遠くの玉蜀黍(たうもろこし)もよくできたので、家ぢゆうみんな悦(よろこ)んでゐるといふやうなことも云ひました。

またあの森の中へ主人の息子といつしよに何べんも行つて見たけれども、家はすつかり壊れてゐたし、ブドリはどこへ行つたかわからないのでいつもがつかりして帰つてゐたら、昨日新聞で主人がブドリのけがをしたことを読んだのでやつとこつちへ訪ねて来たといふことも云ひました。ブドリは、直つたらきつとその家へ訪ねて行つてお礼を云ふ約束をしてネリを帰しました。



 九、カルボナード島

 それからの五年は、ブドリにはほんたうに楽しいものでした。赤鬚(あかひげ)の主人の家にも何べんもお礼に行きました。
 もうよほど年は老(と)つてゐましたが、やはり非常な元気で、こんどは毛の長い兎(うさぎ)を千疋(びき)以上飼つたり、赤い甘藍(かんらん)ばかり畑に作つたり、相変らずの山師はやつてゐましたが、暮しはずうつといゝやうでした。