宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 6/54

「お前たちはいゝ子供だ。けれどもいゝ子供だといふだけでは何にもならん。わしと一緒についておいで。尤(もつと)も男の子は強いし、わしも二人はつれて行けない。 おい女の子、おまへはここにゐても、もうたべるものがないんだ。をぢさんと一緒に町へ行かう。毎日パンを食べさせてやるよ。」そしてぷいつとネリを抱きあげて、せなかの籠へ入れて、そのまゝ「おゝほいほい。おゝほいほい。」とどなりながら、風のやうに家を出て行きました。ネリはおもてではじめてわつと泣き出し、ブドリは、「どろぼう、どろぼう。」と泣きながら叫んで追ひかけましたが、男はもう森の横を通つてずうつと向ふの草原(くさはら)を走つてゐて、そこからネリの泣き声が、かすかにふるへて聞えるだけでした。
 ブドリは、泣いてどなつて森のはづれまで追ひかけて行きましたが、たうとう疲れてばつたり倒れてしまひました。