二、てぐす工場
ブドリがふつと眼をひらいたとき、いきなり頭の上で、いやに平べつたい声がしました。
「やつと眼がさめたな。まだお前は飢饉(ききん)のつもりかい。起きておれに手伝はないか。」
見るとそれは茶いろな きのこしやつぽ をかぶつて外套(ぐわいたう)にすぐシヤツを着た男で、何か針金でこさへたものをぶらぶら持つてゐるのでした。
「もう飢饉は過ぎたの? 手伝ひつて何を手伝ふの?」ブドリがききました。
「網掛けさ。」
「ここへ網を掛けるの?」
「掛けるのさ。」
「網を掛けて何にするの?」
「てぐす を飼ふのさ。」
見るとすぐブドリの前の栗の木に、二人の男がはしごをかけてのぼつてゐて、一生けん命何か網を投げたり、それを操つたりしてゐるやうでしたが、網も糸も一向見えませんでした。
「あれでてぐすが飼へるの?」
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