蒲 松 齢(ほ しょうれい)作
聊斎志異(りょうさいしい)より
泥書生(どろしょせい)
羅村(らそん)に住む陳代(ちん だい)は知恵遅れの人で、結婚したものの、夫としてのつとめが果たせませんでした。
妻は美人だけに「何でこんな人のところに」とおもしろくなかったのですが、浮気をしたりすることはなかったので、姑との間はうまくいっておりました。
そんなことで、新婚早々からひとり寝というわけなのですが、ある夜、風の音とともに扉が開き、見知らぬ書生がはいってきたのです。
男は服を脱ぐとベッドにはいろうとします。
人を呼ぼうにも声が出ず、全身から力が抜けて抵抗もできず、男にされるままになってしまったのでした。
行為が終わると男は立ち去ってしまったのですが、以来、一晩も休まずにかよってくるのです。
一か月もすると、げっそりとやつれてしまい、姑に問いつめられて夜ごとの怪事を話したのでした。
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それは妖怪に違いないというので、棒を持たせた陳を寝室にひそませることにしました。
夜がふけると男があらわれ、頭巾と服を脱いでベッドにはいろうといたしましたが、急にあたりを見回し、
「んー? 人の気配がするぞ」と、服をまた着直しました。
逃げられてはと、陳は暗闇の中に立ち上がり、棒を振りかぶって思い切りなぐりつけました。
棒は書生の腰にあたってコーンと音をたてたのですが、男の姿は消えてしまったのです。
灯りをつけてみると泥人形の服のかけらが落ちていて、机の上には泥の頭巾が置いてあるのでした。
それきり男が現れることはなかったそうですが、妻がそれを喜んだか悲しんだかは書いてありません。
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