聊斎志異より 「寒月芙きょ」 4/5

ところへ下僕のひとりが駆け込んできて「蓮の葉が出ています」と知らせました。
あらためて見ると枯れくきはいつのまにか緑に変わっていて、葉の間にはツボミも揺れているのです。
と、見る間にツボミがふくらんで無数の花が開き、すばらしい香りが北風に乗って流れてきます。
誰かに命じられた下僕が、花を取ろうと舟を出したのでしたが、しばらくすると不思議そうな顔つきで戻ってきました。
「近づくと花が遠ざかって、いつまでたっても行き着かないのです。振り返ると、蓮は今度は後にありました」
それを聞くと、道人は
「それはそうでしょう。あれは幻の花ぢゃもの」と笑うのです。
宴会がたけなわを過ぎるころ、北風が起こって蓮の花はしぼみ、やがてもとの枯れた茎に変わったのでした。

のちに、このときの招待客のひとりの屋敷で宴会があったとき、おいしい酒が出たことがありました。
客はもっと飲みたかったのですが、ひとつの宴会に一斗と決めている締まり屋の主人は
「もう残っていない」とうそを言いました。
すると招かれていた道人が、
「同じような酒を私も持っていますぢゃ」と、手品師のようにトックリを袖に入れて取り出すと、それには酒が満たされていたのです。