Web 絵草紙
「蛇性の婬」 10/24

「恐ろしい話があるのだ。近頃、都の大臣が熊野権現に願をかけられ、成就のお礼に様々の宝物を奉納された。


ところがそれが宝物殿の中から急に無くなり、大宮司が国の守に訴え出たところ、次官の文室の広之(ふみやのひろゆき)という方が探索のために大宮に来られているということだ。この太刀はどう見ても下役人の持つ物ではなさそうだ。やはり父にも見てもらった方がいい」
見せられた父親は顔を青くして
「大変なことになったものだ。人の物に手を出すようなことはなかったのに、何の因果で悪心が生じたのであろうか。このこと他人に密告されれば、一家は同罪で取りつぶされてしまおう。先祖のため子孫のためには不孝者のひとりくらい何の惜しいことがあろう。明日は訴えて出るがよい」

夜明けを待って太郎が訴え出ると、大宮司が太刀を見て「これに間違いない」と言うのをそばにいた次官が聞き
「ほかの盗品の在処もはかせてやる。そいつを召し捕れ」と命ずれば、十人ほどの武士が太郎を先立てて屋敷に向かいました。
そんなこととは知らず読書をしていた豊雄に押し被さって捕らえ「私が何をしたというのですか」と言うのもかまわず縛り上げ、取り囲んで館に引き立てます。
家族もなすすべを知らず、ただおろおろと右往左往するばかりです。