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次官は豊雄をにらみつけ
「神宝を盗むとは、例のない重罪である。残りの盗品はどこに隠したか、速やかに白状いたせ」
豊雄はようやく捕らえられた訳を知り、涙を流して女に貰ったことを話すのですが、次官はますます怒って、
「国府に県(あがた)の姓を名乗る者がいたことはない。いつわりを申せば罪は更に重くなるぞ」
「こんなふうに囚われの身となって、いつまでも嘘を言えるわけがありません。ああ、どうかあの女を召し出されてお調べください」
次官は武士たちに向かい
「県の真女児(まなご)の屋敷というはどこだ。こいつに案内させて引っ捕らえてこい」
武士たちが豊雄を先立てて真女児の屋敷に来てみれば、立派な門も腐って傾き、瓦の落ちた軒から忍ぶ草が垂れ下がり、とても人の住まいとは思われません。
近所の者を呼び集めて聞けば鍛冶の老人が前に出て、
「県などという名前はついぞ聞いたことがございません。この家は三年ほど前までは村主(すぐり)という人が派手に暮らしておりましたが、筑紫に船で商売に出たきり行方しれずとなり、残った人々も散り散りになって住む人もないまま荒れ果てておりました。昨日この男がはいっていって、しばらくして出てくるのを見て不審に思ったと、この塗り物師の翁が申しました」
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