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門を押し開けてはいれば、中は外よりもひどく荒れ果て、池の水は涸れ、草藪の茂る中に太い松の木が倒れて陰惨な有様です。
客殿の格子戸を開けると、生臭い風が吹き出してきましたから、皆あとずさりして顔を見合わせる中、巨勢の熊樫(こせのくまがし)という豪傑が
「みんな、おれについてこい」と、板敷きを荒々しく踏んで進みます。
塵が一寸ほども積もり、鼠の糞が散らばる中に、古い几帳を置き、花のような女がひとり座っております。
「国司のお召しである。すみやかに参れ」と、熊樫が言っても返事もしませんから、武士たちが捕らえようとすると、地も裂けるかと思われるほどの雷鳴がとどろき、皆そこに倒れてしまいました。
起きあがって見れば、すでに女の姿は消えておりました。
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