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部屋の床を見れば盗まれた神宝がうずたかく積まれておりますから、それらを持って大宮に引き揚げ、怪しい出来事を細かく説明しました。
国司の次官も大宮司も妖怪のなせる事と知り、豊雄を厳しく取り調べることはしませんでした。

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しかし無罪で放免するわけにはゆかず、役所の牢につながれることになりました。
父と兄が国司に多くの金品を贈って罪を買い、百日ほどで何とか放免されたのです。
「こんな事になって知人に会うのも恥ずかしいことです。大和に嫁いだ姉の所にしばらくお世話になろうと思います」と豊雄が言えば、
「こんな目にあった後は重い病にかかったりすることがあるものだ。何か月か世話になってくるがいい」と、供を付けて旅立たせたのでした。
姉の嫁ぎ先は石榴市(つばいち)という所で、田辺の金忠(かねただ)という商人なのでした。
豊雄の来たのを喜び、またその災難に同情して「いつまででも、ここに居なさい」と、いたわってくれるのでした。
そんなことで年も変わって二月になりました。
石榴市(つばいち)は長谷(はせ)寺の近くなのですが、この観世音の霊験あらたかなことは外国にまで知られたほどで、遠近からの参詣人で春はことににぎわっておりました。
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