Web 絵草紙
「蛇性の婬」 18/24

「そういうことだったのか。あの邪神は年を経た大蛇なのだ。彼のさがは婬(いん)にして、牛と交わっては麟を生み、馬と交わっては竜馬を生むという。あなたの容姿が優れているために取り付いたものであろう。そんなに執念深いやつなのだから、よく慎まないと命を失いますぞ」


人々はいよいよ恐れおののいて翁を神様ではないかと拝みますと、翁は笑って
「私は神ではない。大和神社に仕える当麻の酒人(たぎまのさびと)という爺です。帰り道をお送りしましょう。さあ、おいでなさい」と先に立てば、人々も後に従って帰ったのでした。

翌日、大和の神社に行き、昨日の礼を述べて絹や綿を贈り、邪神のお祓いを願えば、翁は贈り物を神官らに分け与えて自分は何も取らず、
「彼はあなたの容姿に淫らな心を起こしたのだが、あなたも彼の仮の姿に惑わされてみだらな心が動いている。これから心を落ち着けて物に動じないようにすれば、この爺の力など借りる必要がありましょうか。くれぐれも心を静かに堅固に保つように」
と、心を込めてさとします。
豊雄は夢から覚めたような気持ちで、繰り返し礼を述べて帰ると、金忠に、
「長いことあの妖怪に惑わされたのは私の心が邪(よこしま)だったからです。親兄弟の助けもせず、こちらのご厄介になるわけにはいきません。お世話頂いたのはもったいないことですが、またお礼にまいりますので」
そうことわって、豊雄は紀の国に帰ったのでした。