Web 絵草紙
「蛇性の婬」 19/24

父母、太郎夫妻はこの恐ろしい出来事を聞いて、まったく豊雄の過ちでなかったことを憐れみ、妖怪の執念深さに恐れおののいたのでした。
「こんなことになったのも独り身でおいたからに違いない。妻を迎えさせよう」と、嫁探しをはじめました。
芝の里に芝の庄司という人がおり、娘を朝廷の下働きの女官に差し上げてありましたが、暇をいただいて、豊雄を婿にと仲人を立てて大宅(おおや)の家に申し込みました。
いい話だというので、やがて婚約が調いました。
そんなわけで都に使いを出せば、この富子という娘もよろこんで帰ってまいります。
何年かの宮仕えに慣れておりますだけに、立ち居振る舞いや姿形なども華やかな娘なのでした。
豊雄は庄司の家に迎えられて娘を見れば、容姿の美しさにすべて満足したのでしたが、それにしても、あの妖怪に取り付かれたことも少しは思い出してもよさそうなものですが……。

初めの夜は何事もなく過ぎました。
二日目の夜、良い気持ちに酔って、
「長く宮廷に暮らしたら、田舎者はうっとうしいでしょうね。ああいう所では何の中将、宰相の君などという方に添い寝されることもあるのでしょう。今さらながら憎いなあ」

などと冗談を言えば、富子はやがて顔を上げて、
「古い契りをお忘れになって、このような、つまらない人を愛されるあなたこそ、わたくしに増して憎く思われます」