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そう言うのは姿形こそ変わっても、まさしく真女児(まなご)の声です。
聞けば身の毛もよだつように恐ろしく、ただあきれ惑うのを見て女は微笑み、
「我が君、どうぞ怪しまないでください。海に誓い山に誓った事をすぐにお忘れでも、ご縁がつながっていればこそ再びこうしてお会いできますものを、他人の言葉にだまされて、しいてお避けになるのなら必ずお恨みいたしますよ。紀伊の山並みどれほど高くとも、あなたの血をもって峰より谷に注ぎ落としましょう。あたらお命をいたずらにお捨てになりませんように」

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そう言われて、ただふるえにふるえてとまらず、今にも取り殺されるようで生きた心地はいたしません。
と、屏風のうしろから
「ご主人様、なんでそんなに怖がられるのですか。こんなおめでたい縁結びなのに」
そう言って出てくるのはまろやです。
それを見て、またまた肝をつぶし目をつぶって倒れ伏したのを、ふたりはかわるがわる話しかけますが、ただ気を失ったようになって夜が明けたのでした。
寝室から逃げだし、舅の庄司に
「こんな恐ろしいことになりました。どうしたらいいでしょうか。」と相談する声も、後ろを気にして小さくなるのでした。
庄司もその妻も顔色を変えてうろたえ、
「どうしたものでしょうか。……毎年熊野に参詣に来られる都の鞍馬寺の僧が、昨日から向かいの山の寺に泊まっているということです。疫病、もののけ、虫害など祈祷の霊験あらたかな法師ということで、この里の者はうやまっております。この人にお願いするのがいいでしょう」
あわただしく使いを出せば、やがて法師がまいります。
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