Web 絵草紙
「蛇性の婬」 22/24

毒気に当たったとみえて、その後は目だけが動いて何か言いたそうにするのですが、声になりません。
水をかけたりしましたが、やがて死んでしまいました。
これを見た人々は魂も抜けてしまったように泣き惑うばかりです。
豊雄は覚悟を決めて、


「修験者の祈祷も役に立たぬほどのものが執念深く私にまつわるのですから、天地の間にあらん限りは探し出されることでしょう。私の命ひとつのために、多くの人を巻き添えにするのは人の道ではありません。あとは自分で決着を付けますので、ご安心ください」と、寝室に向かうのを、庄司家の人々が
「これは、気でも狂われたか」と止めますが、それも耳にはいらぬように戻ってゆきました。
戸を静かに開ければ中は物音もなく、ふたりが向かい合って座っているばかりです。
「あなたは何の恨みがあって、人を引き入れてわたくしを捕らえようとなさるのですか。こののちも刃向かうようなことがあれば、あなただけでなく、この里の人々すべてを苦しいめにあわせましょう。ただ、わたくしのお慕いする心をうれしくおぼしめして、浮気心をお持ちになりませんように」
富子に乗り移った真女児(まなご)が、ことに情をこめて言う様子が、ぞっとするほど気味悪いのでした。
「ことわざにも「人は必ずしも虎を害する心なくとも、虎は人を殺す心あり」とか聞くように、お前は人でない心から私につきまとってひどい目に遭わせた上に、恐ろしい仕返しで脅すのは汚いやり方だ。それでも、私を慕う心は世の人と変わるところはないのだから、私の頼みを聞いてくれ。庄司の娘の命だけは助けてもらいたい。そして、ここにいて人々を苦しめるのは気の毒だから、私をどこへでも連れて行ったらいい」