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豊雄がそう言えば、真女児(まなご)はうれしそうにうなづくのでした。
また部屋を出て、庄司に向かいいとまごいをすれば、庄司はさらに承知せず、
「私も弓矢の道を知る者として、こんな頼りない有様では大宅(おおや)の家(豊雄の実家)にも恥ずかしいことです。小松原の道成(どうじょう)寺に法海和尚という尊い祈祷(きとう)僧がいられます。今は高齢で部屋の外に出ることもないと聞いておりますが、私が頼めばお見捨てにはなりますまい」
庄司はすぐに馬を飛ばしましたが、道が遠いので夜中になって寺につきました。
部屋をはい出してきた老僧は話を聞いて
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「今は老い朽ちて霊験も怪しいものぢゃが、あなたの家の災難を見過ごすわけにはゆかぬ。すぐにお戻りなさい。愚僧も追ってまいりますほどに」
と、芥子(けし)の香りに染みた袈裟(けさ)をとりだして庄司にわたし、
「そやつをだまして近寄り、これを頭にかぶせて力を込めて押し伏せなさい。力を抜けばおそらくは逃げられるぢゃろう。注意してうまくやりなさい」と教えます。
庄司に教えられた豊雄は袈裟を懐に隠して寝室に行き、
「いま、庄司からいとまをいただいた。さあ一緒に立ちのこうではないか」と言って、嬉しそうにしている真女児(まなご)に近づき、袈裟を取り出して素速くかぶせ、力一杯に押さえつけました。
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