Web 絵草紙
「蛇性の婬」 5/24

新宮の里に来て「あがたのまなご」と尋ねるのですが、さらに知る人もありません。
昼過ぎまで探し回ってくたびれた頃、あの供に連れた少女が来るのに出会いました。
豊雄は喜び
「お屋敷はどちらでしょうか。傘を受け取りにまいりました」
少女は喜びの笑みを浮かべて


「ようこそいらっしゃいました。こちらにおいでください」と先に立って案内いたします。
いくほどもなく「こちらでございます」と示す屋敷を見れば、門の作り、屋敷の有様も明け方の夢に違う所がありません。
不思議なことだと思いつつ門をくぐれば、少女は屋敷に走り入って、
「傘をお貸しくださった方にお会いしたので、おつれしました」
「早くこちらにご案内して」と言って出て来るのは真女児(まなご)に違いありません。
「日頃こちらの神主、安倍様のもとで学んでおりますので、ついでに傘を受け取りにまいったのです。お屋敷がわかりましたので、今日は傘をいただいて帰り、またあらためて伺います」
「まろや、決してお帰し してはなりませんよ」と、真女児が少女に命ずると
「しいて傘をお恵みくださったのですから、しいてお礼をしなければなりません」
まろやと呼ばれた少女は豊雄の腰を押して、南向きの奥座敷に迎え入れるのでした。
板敷きの間に畳を置き、家具調度なども古代を思わせる見事なもので、並の人の住まいとは思われません。
真女児が挨拶に出て
「わけあって主人もいない暮らしとなり、充分なおもてなしも出来かねますが、せめて粗末なお酒なりとも差し上げたいと思います」