Web 絵草紙
「蛇性の婬」 7/24

「都の高貴な家柄とお見受けしたのは間違いではありませんでした。鯨のあがるような浜に育った身の、こんなうれしい話を聞くことは二度とないでしょう。即答できないのは自分の物といっては体以外なにもない身だからで、何の贈り物もできない情けなさを恥じるばかりです。こんな甲斐性なしでよろしければ、孔子さえも倒れるという恋の山に、親も自身も忘れて喜んでお助けしましょう」と、豊雄が答えれば、真名児(まなご)は
「うれしいお心を伺いました上は、貧しい家ではありますが、お通いください。ここに先の夫が宝にしておりました腰の物がございます。これをいつも身に帯びていてください」と渡すのを見れば、金銀で飾った恐ろしいほどに鍛えられた古代の太刀なのです。
事の初めに断るのは不吉なことと受け取ったものの、今夜は泊まっていくようにとのすすめは
「親の許しのない宿泊はとがめを受けますので、明日、何かと偽って改めて泊めていただきにまいりましょう」と、断って帰りましたが、その夜も夢見がちに明けたのでした。

太郎(長男の呼び名)は漁のしたくのために暗いうちから起き、豊雄の部屋を通りかかると、まだ消え残る灯火に何かが光ったようなので、のぞき込んでみれば立派な太刀が枕元に置いてあります。