Web 絵草紙
「蛇性の婬」 8/24

「なんでこんな物があるのだ」太郎が荒々しく戸を開ける音に豊雄は目覚め、
「ご用でしょうか」


「そのきらきらしい物はどうしたのだ。そんな高価な物は漁師の持つ物ではない。父に見られたらどんなに叱られるか」
「これは買ったのではなく、昨日ひとに頂いたのをここに置いたのです」
「こんな宝物をくれる者がどこにいるのだ。日頃わけの解らぬ書物を買うのさえ無駄遣いと思っているが、父が黙っているから何も言わずにいたのだ。こんな太刀をはいて大宮の祭りに練り歩こうというのか、うつけ者めが」と怒鳴る声を父が聞いて
「やっかい者がまた何かしでかしたのか。太郎、こっちへ連れてこい」
「どこで買ってきたのか、将軍のはくような太刀を持っているのです。呼んでご覧になったらいいでしょう。私はもう行かないと網子たちが怠けるでしょうから」と言って出て行ってしまいました。
母親が豊雄に向かい、
「そんな物を何のために買ったのか。米も銭もすべて太郎の物、お前の物は何があるというのです。今まではお前の好き勝手にさせてきたが、こんなことで太郎に憎まれれば天地の間にお前の居場所は無くなります。難しいことを学ぶほどの者が、なぜこんなことわりをわきまえぬのです」