Web 絵草紙
「中務の大輔の娘近江の郡司の婢と成れる語」 3/5

それで、尼さんは果物など持っていったついでに男の話をし、
「いつまでも、このままでは居られませんでしょう」と薦めましたが、女は
「どうしてそんな事ができましょう」と断ったのでした。
その夜、思い詰めた男は弓などを持って屋敷のまわりをうろつき回ったので犬が頻りに吠え、女もいつもより恐ろしく侘びしい夜を過ごしました。
夜が明けて尼さんに「昨夜は恐ろしい晩でした」と言えば、
「それだから申し上げたのですよ、そんなに思ってくれる者と一緒におなりなさいって」
女がどうしようかと迷っている様子を見て取った尼さんは、その夜、男を女の所へ忍んで行かせたのでした。
その後、男も女になれ親しんで、初めて知る高貴の女を離れがたく思い、近江へ連れて帰りました。
ところが、この男はすでに妻を持っていたので、親の郡司の家に女をあずけましたが、本の妻がひどくねたみ騒ぎ立てるので、親の家に寄りつけなくなってしまいました。(妻の家に通うか住むのが普通でした)
それで京の女は郡司の家で、「京の」という呼び名で使用人として働くことになりました。

その頃、近江に新しい国司が着任するということで、国を挙げて準備に追われることになりました。