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その国司が到着したので、郡司の家でも大騒ぎで饗応の食物などを調え、館に運びましたが、京の女もそのうちに加えられました。
国司は館で、多くの下人が物を運ぶのを見ていましたが、その内に下人に似合わぬ品のある女が居るのを見て、そば使いの子供に
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「あの女はどこの者か。調べて、今夜参上させるように」と命じました。
調べて郡司に伝えると、驚いた郡司は家に帰り、「京の」に風呂をつかわせ、髪を洗わせ、と様々にみがき立てて、その妻に向かい
「見なさい、化粧した京のの美しさを」と言ったものでした。
その夜は、然るべき衣装を着せて館に差し上げたのでした。
ところで、この国司は何と女の元の夫だったのです。
女を近くで見ればどうも見覚えがあるようですし、抱いて寝ても初めての女のような感じがしません。
「おまえはどういう者なのか。不思議に見憶えがあるように思える」と言えば、女は
「わたくしはこの国の者ではありません。もとは京におりました」とだけ答えたので、国司はただ『京から来て郡司に使われている者か』と思っていました。
女を慕わしく思った国司は、夜ごとに京のを召しておりましたが、不思議と懐かしく思われるので、素性を話すようにと言えば、女も今は隠さずに話し、
「もしや昔の夫の知り合いなどでもあったら、と思って今まで申し上げませんでした」と言って泣きました。
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