Web 絵草紙
「陸奥の前司 橘則光、人を切り殺せる語」 3/4

「これで終わりか」と思う間もなく
「小しゃくな奴! 逃がすものか!」と、またひとりが、しつこく走りかかってきます。


「今度はやられるか。神仏、助けたまえ!」と、走り寄ってくる者に、太刀を槍のように突き出して振り向くと、突然のことで相手は近すぎて則光の衣を切ることもできず、則光の太刀に自分から飛び込む形で体を貫かれました。
太刀を引き抜くと賊はのけぞって倒れたので、その太刀を持った腕を切り落としました。
まだ他にいるかとあたりの様子をうかがいましたが、人の気配はありません。
出て来た待賢門まで駆け戻り、柱を背にして立ち、連れの子供はどうしたろうかと心配していると、子供が大路を泣きながら戻ってきましたから、呼び寄せて宿直所に着替えを取りに行かせました。
返り血の付いた着物は子供に隠し持たせ、刀の血などもよく洗い清め、子供には事件のことを固く口止めして、何くわぬ顔で宿直所にもどって横になりましたが、これが自分の仕業と知られて、宿直をさぼってこんな事件を起こしたことが発覚したらどうしようと、一晩中心配していました。
 
夜が明けると、この事件で周囲は大変な騒ぎです。
これを見に行こうと則光も誘われて、行きたくはないのですが、行かないのもまた疑われると思い、渋々ながら同行しました。