|
女が部屋におさまり、少女は櫛箱を隠して屏風の裏に隠れたところで典薬頭は部屋にはいり、
「お越しになられたのはどなた様でしょうか。御用向きをお聞かせください」
「こちらにおはいりください。恥ずかしがりはいたしませんので」と、女が言いますから、医師は隔ての簾の内にはいって見れば、髪の毛から目鼻立ちなど、全く申し分のない三十ばかりの女で、見事な衣装から、たきこめた香のいいかおりがします。
女は恥じらう様子もなく、長年の夫婦のようにうち解けて向かい合っております。
医師は『不思議なことだ。これは自分の思い通りになる女だ』と喜び、歯も抜けた皺だらけの顔をほころばせてにじり寄ります。
三四年前、老妻が亡くなってから、ずっとひとり暮らしなので、嬉しく思っておりますと、女は
「人の心は哀れなもの、命の惜しさには身の恥も顧みず、どんなことをしてでも生き延びたいと思ってまいりました。今は死ぬも生きるもあなたの御心しだいです」と言って泣きじゃくります。
医師はすっかり同情して、
「どのような事がごさいましたか」と聞けば、女は袴の脇の合わせ目を引き開けて見せました。
|
雪のように白い股の辺りに赤い腫れがあるのですが、それが尋常でない感じなので、袴の紐を解かせ、しっかり探ってみると、命に関わるような腫瘍です。
|