Web 絵草紙
「女、医師の家に行きて瘡を治して逃げたる語」 3/4

『典薬頭の名誉にかけても、秘術を尽くして治さねば』と、その日から誰も寄せつけず、たすきがけして、昼夜を問わず治療にあたりました。
七日ほど経つうちに、症状は次第によくなってきたので
『も少しこのままにしておいて、どこの人か聞いてから帰そう』など考え、冷やすのをやめて、日に五六度ほど何の薬か陶器に入れたものを鳥の羽根でつける程度で、『もう大丈夫だ』と医師も嬉しそうに見えました。
「このたびは見苦しい所をお見せいたしました。今は親ともお慕いもうしております。帰るときは、こちらのお車でお送りください。その時に私の素性はお話しましょう。また、こちらにもたびたび通ってまいりましょう」

などと女が言いますから、医師は喜んで『あと四五日はここにいるだろう』と安心していました。
夕方に調えさせた食事を医師が自分で運び、
「さあ、夕食をお召し上がりください」と、部屋にはいると、そこには誰もいません。
その時は、屏風の陰で例の櫛箱を使用中なのかなどと思い、そのまま食事の膳を持ち帰りました。
そのうち暗くなってきましたから燭台を持って行ってみますと、やはり誰もおらず、重ねた衣装がそのまま脱ぎ捨ててあります。