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その長持を祇園の寺に持ち込むと、応対した僧たちは立派な長持を見て、これは大変な宝物に違いないと思い
「早く別当に申し上げろ。別当の立ち会いなしに開くわけにはいかない」というので知らせに行かせ、しばらく待ちましたが、戻った使いは
「別当は見当たりません」とのことです。
使いの侍はいらいらして、
「いつまで待たせるおつもりか。私が立ち会うのだからよけいな心配はご無用。すぐにお開けください。私はいそがしいのです」
僧どもが「どうしたものかな」などと相談していると、長持の中から細く侘びしげな声がします。
「いいから、所司(しょし/次の位の僧)の立ち会いで開けなさい」
これを聞いた僧たちや使いの侍は、あきれて顔を見合わせるばかりです。
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