Web 絵草紙
「人に知られぬ女盗人の語」 2/6

「自分がはいって扉を閉めたのち、女は誰にものを命じたこともないのに、どうして自分の食い物まで運んでくるのだろうか。もしや別に夫がいるのではないか」と、男は不審に思ったのですが、空腹でしたから喜んで食べました。
女も夫と居るように自然に食べるのです。
食事が終わると、女房ふうの女が片づけをして、みな出て行ってしまいました。

女は男に戸締まりをさせ一緒に寝たのでした。
夜が明けると、また扉を叩く音がして、昨日とは違う者はいってくると、蔀(しとみ)を上げ、部屋を掃除してしばらくいるうちに朝食が運ばれ、また、昼の食物なども届けられ、片づけが済めば皆出て行ってしまいました。

二三日が過ぎたころ、女が
「どこかに用事などございますか」と聞くので、
「知り合いの所にちょっとした用事があることはあるのですが」と答えると、
「それならすぐにお出かけなさい」と言って、立派な馬に見苦しからぬ鞍を置き、下男三人と馬の口取りの男がついて引き出されてきました。
さらに納戸のような部屋からふさわしい装束を出して男に着せましたから、男は馬に乗って出かけましたが、その従者どもの機転の利いて使いよいことは、意にかなってとても気持ちがよいのです。
戻ってくると、女が何も命じないうちに、馬を引いてどこかに消えてしまいました。

こんなふうに何の不自由もなく二十日ばかりが経ったころ、女が言うには
「思いがけぬ偶然のご縁のようですが、こうなる定めだったのかもしれません。でも、こうなったからには生死のことでも、わたくしのたのみを、よもやお断りにはならないでしょうね」