Web 絵草紙
「人に知られぬ女盗人の語」 4/6
 

「これから蓼中(たでなか)の御門に行き、そっと弓の弦をならしなさい。すると向こうでも弦打ちをする者がありましょう。口笛を吹けば、やはり口笛で答えるでしょう。そちらに行くと「誰か」と聞くでしょうから「まいりました」とだけお答えなさい。そして一緒に行き、指示に従って見張りをし、邪魔する者があれば闘って防いでください。終われば船岡山の麓で品物を分配しようとするでしょう。そのとき、分け前をけっして受け取ってはなりません」と、こまかく教えて送り出しました。
教えられた所に行ってみれば、言われたように呼び寄せられたのです。
見れば同じいでたちの者が二十人ばかりおります。
少し離れて小柄な色白の男が立っていて、皆その男をうやまう様子に見えるのでした。
ほかに下働きの者が二三十人ほどおりました。

そこで手はずをととのえると、連れだって京の町にはいり、二十人ほどを周囲の邪魔しそうな屋敷の門に二三人ずつ立たせ、残りは目的の屋敷に押し入りました。
腕を試すつもりだったのか、男は特に手強そうな屋敷に割り当てられました。
押し込みの騒ぎを聞いて、男の立つ屋敷からも武士たちが助けに出ようとして戦いになりましたが、男はこれらを射倒し、さらにまわりの仲間にも気を配って立派に働きました。
事が終わると船岡山の麓で略奪品の分配があり、男にも品物を渡そうとしましたが、
「私はただ仕事を習おうと参ったので、品物はいりません」と断りました。
離れた所に首領らしい者が立っていましたが、それを見て満足そうな様子に見えました。