Web 絵草紙
「時平の大臣 国経の大納言の妻を取れる語」 3/4

皆すっかり酔って衣装の紐を解き、くつろいで舞い踊るうちに夜も更け、帰り支度となりました。
大納言は、遠慮する大臣の車を寝殿の下まで寄せるよう指図し、すばらしい馬二頭や楽器などを贈り物にしました。
ところが大臣は、
「酔った上での戯れ言ではありますが、叔父上に敬意を表してわざわざ参上した訳ですから、喜んで頂けたのなら、格別の引き出物が頂きたいものですね」などと言います。

自分は叔父とはいえ、目上の大臣が逆に挨拶に来てくれるとは名誉な事と感激していた大納言は、こう言われると居たたまれず、大臣がいつも簾の内をちらちらと見るのを気にしていましたから、酔った勢いで、
「私はこの妻を宝と思っております。最高位の大臣でもこれほどの者はお持ちではありますまい。これを引き出物に差し上げましょう」
と、簾の間から北の方の袖を取って引き寄せ、大臣に差し出しました。
「ありがたい。これこそ、まことに素晴らしい引き出物。こうして参った甲斐があるというものです」
そう言って、大臣は北の方を抱き寄せましたから、大納言は立ち退きながら
「供の方々はお帰りください。大臣は当分お帰りになられないでしょう」と手振りで追い出そうとします。
貴族の面々は目配せして立ちましたが、なお成り行きを見とどけようと隠れてとどまる者もおりました。